日本から受給手続きをする場合イレギュラーな方法で申し込みが必要なので、これからアメリカで働く予定や計画のある方は手順を押さえておきましょう。
目次
アメリカの公的年金の基礎知識

アメリカでは日本と同じように公的な年金制度があります。
正式な名称は、『Old-Age Survivors and Disability Insurance(老齢・遺族・障害年金)』と言います。頭文字を取ってOASDIと記載することも。
100名を対象に行ったアンケートでは、アメリカの年金に対するイメージで以下のような結果が出ました。

アメリカの年金制度は日本よりも薄いイメージがあると答えた人が半数を超えていることが分かります。
おそらく、アメリカの医療保険制度は複雑で自己負担額も大きいことから「年金制度もそれと近いのではないか」と考える方が多いのでしょう。
たしかにアメリカの医療保険制度は日本よりも格段に複雑で、手続きや金額の面で自己負担が大きいです。
しかし、年金制度は国家が公的に運営しており、サポートが薄いわけではありません。
アメリカの公的年金についての基礎的な情報についてまとめました。
アメリカの年金制度には、大きく2つの種類があります。1つは国が運営する公的年金で、Social Securityと呼ばれます。もう1つは、会社や個人が任意で加入する私的年金で、401(k)やIRAという仕組みがあります。
公的年金は、働く人であれば加入が必要なものです。一方、私的年金は、税金の優遇を受けながら自分で将来のためにお金を積み立てていく仕組みで、加入するかどうかは本人の選択に任されています。なお、私的年金の積み立てられる上限額は、2026年からさらに増える見込みです。
それぞれの主な違いをまとめると、次のようになります。
| 項目 | 公的年金(Social Security) | 私的年金(401(k)) | 私的年金(IRA) |
|---|---|---|---|
| 対象になる人 | 収入のある働く人 | 制度を導入している会社で働く人 | 収入のある個人 |
| 積み立てられる上限(2026年) | 給料の6.2%(会社分と合わせて12.4%) | 年間24,500ドル(50歳からは追加で積み立て可能) | 年間7,500ドル(50歳からは追加で積み立て可能) |
| 税金の優遇 | 給料からあらかじめ差し引かれる形で納める | 積み立て時に税金が軽くなり、増えた分にも税金がかからない | 積み立て時に税金が軽くなるタイプと、受け取り時に税金がかからないタイプ(Roth)がある |
| 受け取り・引き出しを始められる年齢 | 67歳(1960年以降に生まれた人が満額を受け取れる年齢) | 59歳6か月(基本的にこの年齢を過ぎれば、ペナルティなしで引き出せる) | 59歳6か月(基本的にこの年齢を過ぎれば、ペナルティなしで引き出せる) |
管轄
アメリカの公的年金の管轄は社会保障庁で、社会保障法を根拠法に運営されています。
給付額の水準は、当時の賃金を過去35年間の平均賃金伸び率をあてはめて算出されます。(スライド済平均賃金月額)
年金額計算式(月額)=0.9A+0.32B+0.15C
A:再評価済み賃金~960USD
B:同960~5,785USDまでの分
C:同5,785USD~の分
計算が複雑で分かりにくいため、詳しくはBenefits Planner: Retiremenでご確認ください。
社会保障税の支払い
アメリカの公的年金は、毎月『社会保障税』として支払います。
保険料率は12.4%で、会社勤務の場合は会社と労働者が折半するので6.2%ずつ。
自営業の場合は全額被保険者が負担します。
加入条件は、
・被用者(パート勤務等を含む)
・自営業者(年間400USD以上の順営業所得がある)
です。
アメリカの年金は公的な制度ですが、年間で400ドル以上の収入がなければ加入できません。
日本のように成人が全て公的年金に加入したり、無職の間も年金を毎月支払わなければならないということは義務付けられていません。
収入がなく年金加入が難しかったアメリカ市民は、65歳以上になれば日本の生活保護に相当するSSIという制度が利用できることがあります。
SSIの受給条件は65歳以上であるか、視力またはその他障害があり経済的なリソースに制限がある人です。
SSIではほぼ全ての州で保険料と、フードチケットや医療補助が受け取れます。(カリフォルニア州ではフードチケットは支給されません。)
受給要件
退職(老齢)年金の場合は、10年以上基準を上回る収入を得ていることが受給条件となります。
基準額は年によって異なりますが、2020年四半期での基準は1,410USDです。
受給開始年齢は66歳で、1955年以降生まれは段階的に引き上げられています。
1960年以降に生まれた人は67歳から受給可能です。
62歳から早期受給できますが、金額は割引されます。反対に受給時期を送らせて割増金額を受け取ることもできます。
配偶者は加入者本人の50%の年金が受給されます。
障害年金
なんらかの障害が発生した際は、その時の年齢に応じて定められた期間社会保障税を支払っている場合に社会保障年金が給付されます。
2019年のデータでは、配偶者とお子さんがいる場合の障害年金の平均受給月額は2,178USDとなっています。
遺族年金
年金加入者が亡くなった場合は、死亡時の年齢に応じて一定期間社会保障税を払っていると配偶者または家族に遺族年金が支給されます。
受給金額は子供の年齢や障害の有無によって変動します。
また、死亡一時金として遺族1人あたりに255USD(2020年時点)が支給されます。
日本人が渡米した際の年金の扱いは?

日本人が一定期間アメリカの会社等で勤務した場合の年金の扱いについて見ていきましょう。
日米社会保障協定の対象期間と申請手順
2005年10月に始まった日米社会保障協定により、年金保険料を日米両方で払う必要がなくなり、日本とアメリカでの加入期間を合わせて計算できるようになりました。
日本企業からアメリカへの派遣期間が5年以内と見込まれる場合は、日本の年金事務所で「適用証明書」を取得可能です。取得すれば、日本の年金制度に入りながら、アメリカでの社会保障税の支払いが免除されます。
アメリカの年金を受け取るためには、基本的に次の2つの条件を両方満たす必要があります。
・アメリカでの加入期間が6クレジット(おおよそ1年半)以上あること
・日本とアメリカの加入期間を合わせて10年以上(40クレジットに相当)あること
つまり、アメリカでの1年半だけで年金を受け取れるわけではありません。日本での加入期間と合わせることで、アメリカでの期間不足を補える制度です。
なお、年金の受給申請は、日本の年金事務所の窓口でも行えます。
社会保障協定
社会保障協定とは、保険料の二重負担や年金受給資格についての問題を防ぐための制度です。
海外で勤務する場合は、日本とアメリカで二重に社会保険料を支払わないで済むように渡航前に年金事務所で手続きが必要です。
一時的にアメリカで働く場合は、アメリカの社会保障に加入しなくていいように「適用証明書」を取得しましょう。
事業主が「適用証明書交付申請書」を年金事務所に提出し、「適用証明書」をアメリカの勤務先に提出すればアメリカの社会保障への加入が免除されます。(日本の社会保険には引き続き加入した状態です。)
アメリカ支社に長期間勤務したり、現地採用などでアメリカの社会保障制度に加入しなければならない場合は、事業主が日本国内の年金事務所に厚生年金保険の資格喪失届を提出します。
一定期間アメリカの年金に加入した場合
アメリカで働き社会保障制度に6クレジット(1年6ヶ月)以上、日米通算での年金加入期間が通算10年を超える場合、アメリカの退職年金が受け取れます。
振り込みは毎月で、アメリカドルまたは日本円でのどちらかが選択できます。
日本に帰国してからアメリカの年金を受け取るには?

海外赴任やアメリカ現地での就労などの経験がある人が、日本に帰国してからアメリカの退職年金を受け取るために必要な手続きについてご紹介します。
401(k)・IRAの引き出しとロールオーバーの選択肢
日本に帰国した後でも、受け取りの条件を満たしていれば、アメリカの公的年金(Social Security)を受け取ることができます。
受け取り方法は、日本円の銀行口座への振り込み、またはアメリカドルでの振り込みから選択が可能です。手続きは、日本の年金事務所の窓口で行えます。
一方、401(k)やIRAといった私的年金については、帰国するときに、資産をどう扱うか選べます。
・アメリカの口座をそのまま残す:一定の残高があれば、帰国後もアメリカの口座にお金を残し、運用を続けられる場合があります。
・IRAへ移す(ロールオーバー):資産を個人退職口座(IRA)に移して、運用を続ける方法です。金融機関どうしで直接お金を移す方法(Direct Rollover)であれば、手続きの間違いや思わぬ税金の発生を防ぎやすいメリットがあります。
・現金で引き出す:基本的に、59歳6か月を過ぎていれば、ペナルティなしで引き出せます。それより前に引き出すと、所得税のほかに10%の追加の税金がかかる場合があるため、注意が必要です。
日本に住むようになった後の引き出しや配当にかかる税金は、日米の制度がからみ合っていて仕組みが複雑なため、帰国前に専門家へ確認しておくと安心です。
必要な書類
まずは、アメリカの退職年金受給手続きに必要な書類を揃えましょう。
・アメリカの年金請求申出書(日本年金機構のサイトからダウンロードできます)
・戸籍抄本かパスポートの写し※
・年金手帳または年金証書のコピー
・共済組合員の場合は加入番号が分かるもの
・アメリカのSSN(ソーシャルセキュリティナンバー)カードの写しか、SSNが確認できる書類※
※・・・配偶者やお子さんがいる場合は家族全員分
これらの書類を用意して管轄の年金事務所にて申込をします。
SSNが分からなくなった場合は、アメリカ側で調べてもらえますのでその旨を伝えましょう。
SSNについては、『SSN(ソーシャル・セキュリティ・ナンバー)とは【アメリカで役立つ知識】』で詳しく解説しております。
手続き
年金事務所に書類を提出後、SSA(合衆国領事部連邦年金課)に申込者の年金加入記録が送られて確認作業が行われます。
確認が出来次第、電話での聞き取りなどが行われて審査に進みます。
加入者本人だけが単身赴任していた場合でも配偶者には50%が支給されます。
配偶者にSSNがない場合は、アメリカの大使館か領事館で面接証明を受けるケースがあるので、指示に従って手続きを行いましょう。
年金受給のためにアメリカ大使館にSSN取得を申請する場合は、写真付き身分証明(運転免許証か有効な旅券など)を持参しましょう。
申請には予約が必要ですので、お近くの大使館または領事館の年金課にお問合せください。
期間
申込から審査結果が出るまでの期間は時期などによっても変動しますが、
・SSAの確認完了まで:数ヵ月~半年程度
・電話での聞き取りから審査完了まで:数ヵ月
ほどかかります。
申請書を提出してしばらくしてSSAから英文の手紙が届くことがあります。この時点で、最終確認に入ったというお知らせなので、2~3ヶ月後には審査結果が出ます。
受給の3ヶ月前から申請できるので余裕を持って準備を進めておき、早めに申込をすることをおすすめします。
手続き中に誕生日が来て受給年齢になった場合は、遡って受給できますが6ヶ月以上経つと受給権利の時効がきてしまうので気を付けましょう。
長期駐在者からのよくある質問と回答
アメリカでの就労や、日本に帰国した後の年金受け取りについて、長期駐在の方や現地で採用された方からよく寄せられる質問をまとめました。
Q1:短期駐在で払った社会保障税は、帰国するときに返金されますか?
アメリカには、日本の「脱退一時金」のような税金の返金制度はありませんが、払った税金が無駄になるわけではありません。日米社会保障協定により、アメリカでの加入期間が1年半以上(6クレジット以上)あれば、日本の加入期間と合わせて10年以上という条件を満たすことができるため、将来、日本からアメリカの年金を申請して受け取れる可能性があります。
Q2:日本の年金とアメリカの年金、どちらを受け取るほうがいいのでしょうか?
受け取れる金額は、それぞれの賃金や加入期間によって変わるため、一概には言えません。ただ、受け取りをめぐる状況は近年良くなっています。2025年1月に成立した法律により、日本の年金を受け取っているとアメリカの年金が減らされる仕組み(WEP)が廃止されました。2024年1月分以降の年金については、減額なしで両方を受け取れるようになっています。
Q3:駐在が5年を超えた場合、アメリカの社会保障税を払う必要が出てきますか?
5年を超える派遣の場合、基本的にはアメリカの制度に加入することになります。ただし、プロジェクトの遅れや、子どもの学年が終わるまで滞在したいなど、あらかじめ予測できなかった理由があれば、申請して免除期間を延ばせないか確認しましょう。延長の申請を忘れてしまうと、税金の支払いが遅れたことによるペナルティが発生するおそれがあるため、注意が必要です。
Q4:働いていない配偶者も、アメリカの年金をもらえますか?
本人が受け取る条件を満たしていれば、配偶者は本人の受給額のおよそ半分を「配偶者年金」として受け取れます。申請には社会保障番号(SSN)が必要ですが、持っていない場合は、日本の年金事務所で申請する際に、大使館などでの面接を通じて取得や確認を行う流れになります。
まとめ
アメリカの年金は日本と同様に公的な制度ですが、加入条件など日本とは異なる面も多いので分かりにくいかもしれません。
本文でご紹介したように一定期間以上アメリカで現地の企業に勤務した経験があり、日本でも10年以上年金に加入している方は、日本にいながらアメリカの退職年金を受給できます。
アメリカの退職年金を利用する場合は申請から受給決定までとにかく時間がかかるので、早めに準備と手続きを進めておきましょう。
何か分からないことがあれば、お近くの年金事務所かアメリカ大使館または領事館の年金課にお問合せください。
